◆「恋しさの色に染まる街で(Colors In The Every Missing Emotion)」...

 

 

 

「線路脇のコーヒーショップは

不要になったコーヒーミルを

改装したものなのだそうだが、

その場で挽いたコーヒーを

店内で味わう事が出来たり

持ち帰る事が出来るとの事で、

わざわざ遠くの街から

足を運んでくる人もいるのだそうだ。

そんな挽きたてのコーヒーの薫りの漂う駅前で

近隣の色彩処理工場から抽出された

カラーチップを売る店では

ドラッグクイーンが

今すぐショーを行うかのような

出で立ちで店頭に立っていた。

普段は街のホテルやパブの舞台に

立っているのだそうだが、

今日のように舞台のない日は

店頭で接客を行っているとの事である。

「ショーの為に舞台に立つのも

こうやって店頭に立っているのも

人前に出ている事に変わりは無いでしょ?

世界にはこれだけ色が溢れていて、

それなのに人生はこれ程までに短くて...

自分の好きな色を纏わなくてどうすると言うの?」

そんな彼女が身に纏うドレスやケープの類は

カラーチップから抽出した色を用いて

自らの手で全て染め上げたものなのだそうだ。

 

「今欲しいのは

丁度そこで客を待ってる木馬タクシーの瞳のような

誰かや何かへの恋しさが

滲み出ているような色よ。

あんな感情を帯びた色を纏って

いつかステージに立ってみたいわ。

何処か工場で抽出して

ウチの店に直接納品してくれないかしらねぇ...。

尤も、誰かや何かに対しての恋しさの色なんて

この世界のみんなが何かしら

持ち合わせているものだけどね。

そこの木馬のタクシーだけじゃないわ、

あのコーヒーミルのお店だってそうだし、

そんな事を言ったらアナタもそうでしょうし、

ワタシだって―

ま、それはどうでもいい事だけどね」

そこまで言うと、

これからの季節に合った色のカラーチップを

店先で探す客の

接客と相談に廻ったのだった。

 

「この世界に来る前は

とある家の

子供によく揺られていたんですよ。

だけど要らなくなったって言うんで、

人に売られたりして

あちこちを転々としている内に

ここに流れ着いたんですがね。」

先程のドラッグクイーンが話題にしていた

木馬のタクシーと

当たり障りのない世間話をしている内に

こう語りだした。

「この世界では

あっしのようなオンボロの木馬でも

タクシーの営業が出来るって言うんで、

坊ちゃんにまた会いたいが為に

この十何年もの間、

様々なお客さんを

乗せながら

元の世界への

旅費をコツコツと

ずっと貯めて来たんですがね。

あぁ、また坊ちゃんに

会いたい...。

坊ちゃんを乗せて

揺られてみたい...」

もしも生きていれば

その子供は恐らく大人、

それどころか既に

壮年の域に差し掛かっているであろうか。

木馬の瞳を見てしまうと

 

そこまで言及は出来なかった。

 

  

そのとき、背後で

「おや、木馬のタクシーとは

これはまた珍しいねぇ」

と、旅行者と思しき

裕福そうな初老の夫婦の

話し声がした。

男性の方は目を細めて

「木馬とはこれはまた懐かしいねぇ...。

子供の頃ウチにあって

よく乗って遊んでいたものだよ...。

正にこんな瞳の色をしていたねぇ...。

どれ、この際だからこの街のホテルまで

乗せて貰おうかね。」

 

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A4(210×297)サイズ程に完成後切り取った水彩紙に

 

水彩絵の具、水彩色鉛筆で描いたもの。

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